~半導体の「つづく」をつくる~
AT三重第二工場建設プロジェクト

2024年5月、古河電工三重事業所に半導体製造用テープの新工場が完成し、開所式を行いました。データセンタや生成AIといった、高度かつ大容量のデータ処理に欠かせない半導体の市場拡大にともない、AT・機能樹脂事業部門が手掛ける「半導体製造用テープ」の需要も増加の一途をたどっています。
その需要に応えるべく、2021年度にAT第二工場建設プロジェクトを発足、およそ3年の奮闘を経て新工場が完成、稼働開始しました。 少数精鋭で工場建設から稼働開始までの膨大な課題・タスクをメンバーが一丸となって一つひとつ解決して完遂したプロジェクトメンバーに当時を振り返っていただきました。
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2024年10月8日取材 所属・役職は取材当時のものです。

建設プロジェクト始動。
未知への挑戦、やるからには思いの詰まった工場に。
—この第二工場建設プロジェクト発足の背景と、プロジェクトに参加したときの気持ちを教えてください
仙台「AT三重工場を立ち上げてもう17年になります。年々、製品へ求められる性能や品質も変化してきており、第二工場建設の計画はあったのですが、なかなか需要とマッチしなくて後ろ倒しされてきた感があります。しかし2021年、いよいよ需要も拡大してきて、まずは準備チームを立上げて需要予測と供給能力を精査し、増産起業に着手する判断となり、第二工場建設の計画がスタートしました。
この先、市場や顧客からの要求に対して、品質の向上や設計の自由度を広げられる設備を導入したいと思い、既存設備には場所の制約から導入することが出来なかった技術も盛り込むことにしました。当初は既存建屋の拡張スペースに設備を入れる前提で検討を進めていたのですが、改正された建築基準法という大きな壁にぶち当たり、結論としては活用を断念せざるを得ませんでした。
どうする……?プロジェクト長としては方向性を出さなければならない時にひらめきました。目の前には広大な空き地がある!いっそのこと建屋から工場を建ててみるかと。投資回収年数等の計算をするには、とにかく急ぎ見積金額を出さなければならず、レイアウト検討から始めたのですが、やり始めると決める事はこれだけではないし、建物を建てるって何が必要なの?設備起業は沢山経験あるけど……。
本社建築課の人と話をしても理解困難なことばかりで、どうしようか……と悩んでいたときに、設備部から、「建屋の専門家と部門の間に入れる人」ということ紹介されたのが、谷口さんでした。」

谷口「いや、まさか私がやるとは思っていませんでした。
このプロジェクトに入る前は光ファイバ工場の設備技術課にいて、準備チームが始動して2ヶ月くらい経ってから参加しました。初めは「面白そうだな」というちょっと軽いノリでした(笑)
プロジェクトでは、全体の予算や納期の管理、各種定例会のとりまとめも担当していました。
ご存じの通り、2021年当時はCOVID-19やロシア・ウクライナ戦争などの影響により納期が大幅に遅れたり、価格が高騰するなどして調整が非常に大変でした。
プロジェクトメンバー全員がこれらの課題を抱える中「何とか良いものを創りたい」という思いで神経をすり減らした日々でした。」

森田「このプロジェクトで最後に呼ばれたのが私でした。2022年の4月に、生産準備チーム作るんでやってくれないか、という話が来ました。
私もそれまでは設備部で正直全く違う仕事をしていたので、未経験のATの仕事、それも建屋からやると。そんな話が急に自分のところに来るなんて……って正直思ったんですけど、裏を返してみると、そんな一から建屋をつくり設備の立ち上げをできるという、設備屋としてもなかなか出来る経験ではないな、ということで、ドキドキワクワク、不安はありつつも「やってみるか」という気持ちで参加しました。」

高岸「私は、建設プロジェクト設備チームで機械を担当しました。元いた製造部の新工場立上げプロジェクトに携われるとあり、自分の思いを詰め込んだ工場にしたいという気持ちをもって取り組みました。機械グループでは、レイアウト、設備の導入、工事管理等を担当しましたが、担当として割り振られた役割だけに限らず、知っている工場だからこそできる製造部側の安全や品質、使いやすさを考え、惜しみなく仕様に盛り込みました。」

細「私は電気担当として建屋の竣工から起業に携わりました。もともとATの設備は担当していなくて、他の部門の設備の仕事をしていたので、プロジェクトに参加することに不安もありましたが、以前設備部で一緒だった高岸さんとのつながりがあったので、皆さんとも問題なくコミュニケーションが取れましたし、プロジェクトの皆さんとの共創を通じて不安も解消されていきました。」

大谷「私は準備チームの頃から参加し、プロジェクトの生産準備チームでは、設備の設計やラインなど設備まわりを担当しました。新しい工場を建設する計画を聞いた時、ともてもワクワクしたことを思い出します。プロジェクトに参画するからには、これまで培ってきた技術やノウハウが凝縮された工場にしたいという思いで取り組んできました。
しかし実際プロジェクトが開始されると、建屋や生産設備、システムなど多くの課題に直面して苦労も多かったですが、やりがいがありました。」

一人ひとりの創意工夫で乗り越えた壁。
プロジェクトを進める上で苦労された点はどんな所でしょうか、そしてそれをどのように乗り越えましたか?
仙台「まず初めに、土地ですね。幸い敷地はあるので容易に建てられるだろうと思っていましたが、当初予定していた既存建屋内のスペースは建築法上、他部門の工場にも影響を及ぼしてしまうということが判明して。そうすると我々AT製造部だけの問題ではなくなるし、工期や費用にも影響が出てきてしまいます。それらを勘案した結果、今の第一工場の隣の土地に建てる計画を考えました。
その後も建築許可を得るまでには地歴調査から始まり、地質調査、地下水調査など、思わぬところでハードルが何個もあり、また構内で待機するトラックの場所も確保が必要とのことで、色々と苦労しました。建設準備チームメンバーだけではとても目標期日に間に合わない状況でしたが、工務課を筆頭に、三重事業所部門長の皆さんの協力もあって、何とか予定通り着工することができました。」
千種「私はプロジェクトでは電気関係全般のフォローを担当しており、第一工場との整合性や保全性にこだわって進めました。もともと設備革新部の三重エンジニアリングソリューション課に在籍していて、このプロジェクトが立ち上がる1年ほど前からATの設備関連の起業をよく担当していたので、それがきっかけで声が掛ったのかなと思います。
先ほどの話にもありましたが、当時ちょうど、COVID-19やロシア・ウクライナ戦争などの影響で、色々モノの納期が読めなくて苦労しました。例えば、通常1か月で入ってくるインバータが、「納期が1年半かかります」とか。なので、検討の段階で普段なら考えなくて良いような「先を読む」検討を、めちゃくちゃ時間をかけてやらざるを得なかったので、最初のころは苦労しました。
常に納期で冷や冷やしていましたが、そういう状況を理解して、前倒しで対応していった事で、何とか問題なく進められました。

プロジェクトの中身では、事業部門内のさまざまな視点からの要望を取りまとめることや、その取りまとめた当社側の要望をゼネコンの方になかなか理解してもらえなくて苦労しました。きちんと理解して共通の認識をもってもらえるよう、必要な要望を整理し、ゼネコンの方に分かりやすい伝え方をするよう工夫しました。反省点としては、当時のリソース不足によるものですが、検討段階から設備技術の担当者も入れて進められれば、のちの手戻りもなくスムーズに進められたな、と思います。
それから、工事をお願いしていたメーカーとのコミュニケーションでは、設備色のところで、こちらが指示した色を、勝手に変えて良いと判断されて違う色にされてしまった事があったり、なかなかこちらの意図が伝わらない事に苦労しました。
その時思ったのが、後で言った言わないのトラブルにならないよう、面倒でもちゃんと記録していたことで、相手に納得してもらえたのが良かったなと思います。」
田附「私は建設プロジェクトチームから参加して、製膜ラインの導入を担当し、ポカミス防止や品質改善、作業性向上にこだわりました。
このプロジェクトの話を聞いた当初から結構ワクワクしていて、やりたいと手を挙げて参加しました。実際来てみて大変でしたが、面白かったです。二度と出来ない経験です。
一番苦労したのは、初めて採用した機械メーカーに、ラインの装置などほぼ全体を依頼して一から設計したのですが、ノウハウ流出対策のため既設の図面を共有してもらえず、口頭やイメージ図で概要設計を行った事です。
安全や品質に対する意識の違いから先方への説明に苦労しましたし、他の設備との接続部分やその機械設計など、詳細寸法データが得られない状態で各装置メーカーと調整するのは大変でした。
ただ、ちょうどその頃から当社内で図面を3D化することが流行っていて、チーム設計担当の人に3Dで描いてもらったものを見ることで実際のイメージが湧き、「あ、これじゃぁやりづらいな」と気づき、ああしよう、こうしようと検討しました。3Dが無かったら設計を失敗した部分もたくさんあったんじゃないかと思うので、本当にありがたかったです。

もう一つ苦労したのが、取引先メーカーの手配トラブルにより納期遅延が発生してしまった時の対応です。以前発注していたはずの機械がなぜかキャンセルされてしまっていて。
その時点で、「今から再発注したら(2024年)1月になりますよ」って。1月って言ったら、もうその機械の据付けを終えて電気工事に入らなきゃいけないタイミングなので何とかして納期を短縮させねばと、当社の資材や本部機構も巻き込んでエスカレーションして、納期短縮を行いました。その結果、3か月遅れになりそうだったところを1か月遅れくらいまで短縮でき、さらに他設備の導入日時を調整して、全体スケジュールに遅れが生じないよう工夫して対応しました。」


谷口「最初にもお話ししましたが、予算面ではかなり苦労しましたね。仕様が固まってきたところで計算してみたら、予算に対して10億円近く超過していました。
超過分をどうするか?について、定例会で意見を出し合って、これは要る/これは要らない、を一つずつ検討しました。
予算の事もそうですが、意見や価値観の違いからぶつかるようなことがあっても、基本的にメンバー全員を集めて対話する場を設けて、合意した上で進めていきました。」

「気持ち」までつくったプロジェクト。
第二工場の量産で、半導体製造用テープの「つづく」をつくる。
-プロジェクトを振り返っての感想と、今後の意気込みをお願いします
細「設備数が多かったので見るところが多く、仕様を伝える上でも、既設のものを調査して進めていく面でも大変でしたが、メンバーと共創して、このプロジェクトをやり遂げたことで大きな達成感が得られました。
この貴重な経験を無駄にせず、胡坐をかかず、これからも良い製品がお客様の所に届くように、フォローできるよう、常に前進する姿勢を持って取り組んでいきたいと思います。」
高岸「私は、生産技術担当として設備のことを知っていることもあり、プロジェクトでは設備の仕様をきめながら建屋のことも検討を進めたりと、対応する範囲が広かった点が大変でしたが、チーム全員で共通の目標に向かって協力し合い、乗り越えることができ、やりがいもありました。これからも、既設の第一工場とあわせて第二工場も利益に貢献できるように、盛り上げていきたいと思います。」
大谷「各自、担当領域がある中、その領域を超えて協力しあい、チームで創り上げたのが第二工場だと思います。工場を建てるまでの苦労もあったんですけど、今度はそれを使いこなして、量産に向けてやっていくっていう真っ只中で私は、異動するんですけど。正直やり残したことばかりなんですよね。設備が出来て試運転できたところから、さらに1年2年というスパンで使いこなして量産に向けて進めていくので。設備が安定し、効率的で良いものづくりが出来るようになるところまで、残りのメンバーに頑張ってもらいたいと思います。
プロジェクトでは設備だけでなく、システムの方も結構検討して、IoTを活用した人のミス防止や効率化の部分もかなりやってきたので、色々な面で使いやすい設備になっていると思います。」
田附「今も絶賛悩み中なのですが、今回設備に新しく導入した所について、自分なりに工夫したつもりが、未だ思うように不良改善や作業の効率化につながっていない所が多くあります。
量産立上げまで時間が限られている中、これを何とか軌道に乗せて、量産できる状態に持っていかなければいけないなと、使命感を持って取り組んでいます。」
千種「今回の起業で、建物の建設というのを初めて一からやらせてもらい、建築にともなう電気工事のところを一通り経験できました。AT事業はもちろんのこと、古河電工でまたいつかこのような案件があれば、その時には今回の経験を活かして貢献できるかなと思います。」
谷口「課題一つひとつに対し、多くの方と議論していく過程で、単に工場という物理的な部分だけをつくっているのではなく、工場に対する愛着や共感、そして将来像など、長く工場を使って行く上で大切な、気持ちの部分についても創っていったんだ、ということに気づかされました。
皆さんの言う通り、工場って計画して建てるまでが非常に大変なんですけど、そこから設備を立ち上げて、ものづくりを安定的に持っていく、というところがかなり大変です。私も、設備部門として、今後ものづくりに対して最大限バックアップして、何とかこの起業計画から利益を生み出せるように少しでもフォローしていけたらなと思っています。
あとは、この建設というのが約20年ぶりということだったので、色々私自身知見を得させてもらいました。これをAT事業だけでなく、古河電工全体に貢献していけるようにやっていけたらなと思います。」
森田「量産立上げプロジェクトチームとして、まさに今、顧客からの第二工場の認定取得を進めています。認定をもらえればそこから量産が始まり、量産が始まれば売り上げが立つので、事業部門としての利益確保、利益増に貢献できるところまで、量産に向けた立上げに注力します。」
仙台「第一工場建設当時と比較して、今は、設備や仕様を変更することに対してお客様から認定取得するのが非常に厳しくなっています。そんな中でも、我々としては技術をどんどん進化させなくてはいけないし、競合に負けない技術を取り入れていかなければ勝ち残っていけないところもあって、今回色んな難しい技術も取り入れてチャレンジしています。
何とかそれを使えるように習得していって、世界No.1の半導体製造用テープができるような、そういう工場にしていきたい。このメンバーがいれば出来ると思いますし、そこに足りない支援があれば、私の方で準備していきたいと思います。
今のうちに第二工場を、安定的に高機能なテープを製造できる設備に仕上げて、市場が本格的に盛り上がってきた時に、我々の起業が間違っていなかったと言えるようにしていきたいと思います。」
